執筆活動

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『HEERO REPORT』(北海道雇用経済研究機構)2002年4月号

誰のための金融再生なのか

――高まる金融アセスメント法制定を求める声――

●続出した中小金融機関の破綻

「市場から退出すべき金融機関は退出させるということで、本年の四月から予定通りペイオフ解禁を実施すべきだと考えている」(森金融庁長官)――金融再生に不可欠なものとして「ペイオフ解禁」を位置づけ、そのスケジュールに合わせて問題金融機関を市場から一掃しておく。そういう強引な金融行政の結果、たった一年間で56もの金融機関が金融庁の手で破たん処理させられた。取引金融機関の突然の破たんで、資金繰りの急激な悪化から倒産を余儀なくされた中小企業も少なくない。また、受け皿金融機関への引継ぎを拒否され、整理回収機構(RCC)送りとなって、倒産の恐怖に怯えながら不安な日々を過ごしている経営者や労働者も多い。地域経済への深刻な影響はむしろこれからじりじりと広がっていくことになる。

もともと大企業向けにつくられた「金融検査マニュアル」を、中小零細企業の信用リスクの判定に形式的に適応していけば、融資先企業の信用格付けが引き下げられ、「要管理先」「破綻懸念先」に回される企業が続出することはいうまでもない。その結果中小金融機関は多額の「引当金」の積み増しを求められ、自己資本も瞬く間に枯渇していく。結果として資本力の乏しい金融機関が整理されていくことになる。すでに大量の金融機関破たんを出した後の本年2月になって、「検査マニュアル」の弾力運用の必要を「デフレ対策」に織り込む政府の姿勢に、「今更何のつもりだ」と怒りをおぼえた人々も少なくなかったのではないだろうか。

●貸し渋り・貸し剥がしの再燃

「二期連続赤字になると金融機関は資金を引き揚げている」(山口信夫日本商工会議所会頭)、「一九九八年当時より貸し渋りは厳しい」(奥田碩日経連会長)――銀行のバランスシートから不良債権を切り離しさえすれば、金融再生、経済再生が可能であるかのような短絡的な政策運営の結末は、結局のところ貸し渋り・貸し剥がしの再燃でしかなかった。不良債権という「目詰まり」を取り除けば、資金の流れが円滑になると言われ、小泉内閣の「不良債権処理の推進政策」に拍手を送った人々も少なくなかったろう。しかし、実際には逆である。不良債権を処理するということはそれだけの損失を帳簿上発生させることにほかならず、したがって銀行は自己資本の減少によって、ますますその貸出能力を奪われることになる。

現在、銀行は「自己資本比率規制」という規制のもとで仕事をしている。それは、銀行の「自己資本」(資本金および利益)を分子におき、「資産」(貸出金や有価証券など)を分母において算出した比率が8%以上なければならないというものである。不良債権を処理すればそれだけ分母の「資産」は減少するが、同時に同額だけ分子の「自己資本」も減少する。「資産」を処理する(捨てる)ということはそれだけ損失が発生することにほかならないからである。結果として、自己資本比率が下がり、銀行はその比率を上げようとして、分母の「資産」(貸出金)を一層減らそうとする。そのために、貸し渋りや貸し剥がしが発生する。不良債権処理を急がせれば、ますます資金の流れは悪くなり、なかでも中小企業の資金繰りは著しく不安定化することになる。

●置き去りにされた金融の「公共性」

中小企業の倒産を連鎖させながら進められる中小金融機関の整理。貸し渋りを強制しながら進行していく不良債権処理。すべてその際のキーワードは「金融再生」である。上記した様々な問題は「金融再生」のための「痛み」として国民も許容すべきだというのが、近年の政府やマスコミの主な論調であった。しかし、現実の「痛み」を体験すればするほど、現場の経済の担い手たちの胸に去来するものは、「一体誰のための金融再生なのか」「何のための金融再生なのか」という疑問である。

現行の銀行法の第1条には「銀行業務の公共性」が記されている。その内容は、「信用秩序の維持」「預金者の保護」そして「金融の円滑」である。最後の「金融の円滑」とは「社会の望ましい分野に資金が円滑に供給されること」であると同法制定当時の銀行局長は説明している。現在の金融再生政策が「円滑な資金供給」という金融業務のもつ「公共性」を著しく犠牲にしながら進められていることは明白である。それはたんに金融業界の収益構造を安定化させるための整理・再編政策、あるいは一民間企業としての銀行の再建支援策でしかない。そうだとすれば、公的資金注入もたんなる業界支援策でしかなく、国民がそのコストを負担する正当な理由も見出せない。

金融機関は一民間企業であると同時に、地域経済にとって不可欠な社会的インフラである。だからこそ、そのインフラの修復に国民もコストを負担するのである。現在の「金融再生」政策には、そういう観点が抜け落ちていないか。こう感じた人々がいま一つの法律の制定を求めて立ち上がっている。それが「金融アセスメント法」である。

●金融アセスメント法とは

金融アセスメント法とは、銀行や信用金庫など、預金取扱金融機関の社会的役割を考慮に入れた総合的な調査を行って、各金融機関の行動を評価し、その結果を国民に向けて公表するよう行政機構に義務づける法律である。具体的には、金融アセスメント委員会が設置され、同委員会が「円滑な資金需給」や「利用者利便」といった、「経営の健全性」とは異なる観点から、金融機関の活動について調査し、その評価結果を「優秀」「良好」「改善必要」など、分りやすい形で国民に公表することになる。

「円滑な資金需給」という項目では、金融機関が営業地域での資金の円滑な流れにどのような貢献を果たしているか、なかでも間接金融に未だ大きく依存せざるをえない中小企業に対しどのような融資活動がなされているかなどの観点から、金融機関の活動が評価される。また、「利用者利便」という項目では、たとえば融資条件等の変更にあたってその理由を金融機関が文書で通知すべく努力しているか、あるいは「物的担保主義」「連帯保証人主義」などに過度に依存することなく、多様な融資形態を借り手に提供しているかなどが評価の対象となる。

同法制定運動の広がりは、自己資本比率でのみ金融機関の良し悪しを評価する現状への不安・不信を示すものであるとともに、利用者自ら、金融機関選択にその評価結果を役立てることによって、社会的任務を正当に果たそうとする金融機関を励まし、育てていこうとする意志の現れでもある。

金融アセスメント法の原形は、すでに米国では「地域再投資法」という形で現実化している。米国では、いかなる経営方針をもつ銀行であっても、地元への資金還流をまったく考慮しないで金融活動を遂行していくことは、それ自体一つのルール違反と認識される。地域経済への貢献は一種の社会的コストとしてすべての金融機関が負担すべきであり、そのことがまた金融機関の持続的発展を可能にするのだという認識がすでに国民的に共有されているのである。

●制定を求める声の高まり

金融アセスメント法の制定を求める声は日増しに強くなっている。すでに昨年12月には北海道議会が全会一致で国に対し金融アセスメント法の制定を求めて意見書を採択した。本年3月には岡山県議会も同様の意見書を採択し、その他、福岡市などすでに全国で230を超える自治体が意見書採択を行っている。また、中小企業家同友会は同法の制定を求める署名活動を展開しており、現在すでに全国で70万名を超える署名を集めるまでにいたっている。政党では桜井充参議院議員が中心になって、民主党版金融アセスメント法ともいえる「地域金融円滑化法案」が国会に提出されている。地方議会では自民党の議員も熱心に動いているし、他の政党も賛意を表明している。最近では、金融アセスメント法の勉強集会に地方銀行や信用金庫の職員も参加しはじめており、同法制定の運動が、地域経済の活性化を目指して金融機関と利用者とが新たな協力・信頼の関係を構築する契機にもなりつつある。

金融危機という厳しい体験が、政策や法律の策定に市民が主体的に参加する新たな運動を生み出した――後世には、ぜひこういう記録を残したいものである。

(参)拙著『誰のための金融再生か』(ちくま新書、本年6月刊行予定)。

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