執筆活動

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「立教経済人クラブ会報」(Vol.15No.21,1999.11.30)への寄稿

グローバル・スタンダードとジャパニーズ・ウェイ

―ペイオフ論議によせて―

(1)

「ペイオフとP&A導入を先送りしていては、日本の金融は世界から取りされるばかりだ。いずれペイオフは導入しなければならない」

――――(『アエラ』1999年8月9日号、20ページ)

ぺイオフ解禁をめぐる論議が盛んになりつつある。時期尚早であるとしてその延期を訴える主張もあれば、反対に、延期を決定すれば国際社会から不信を招くとして、予定通りの実施を強く主張する声もある。政策決定をめぐって様々な立場から盛んな議論が展開されること自体は大いに結構である。問題は、その背後に、またぞろグローバル・スタンダードの幻影がちらついていることにある。

実際、冒頭の一文に示された認識は、いつの間にか日本人の「常識」になっ ている。その上で、「ペイオフをいつ導入すべきか」、「今か、それとももう少し先か」が議論の対象になっている。まるで、「黒船」到来によって「開国」を迫られているかのように、一種の強迫観念のなかで議論がたたかわされてい るのである。

(2)

ペイオフに関する私自身の主張については、別稿――拙稿「慎重論 これだけ の理由」(『中央公論』1999年10月号)または拙著『金融ビッグバンの想と現実』(時事通信社)

――を参照していただくことにして、ここでは、さしあたり以下のことだけを 指摘しておきたい。

第1に、ペイオフに関しては、その導入はけっしてグローバル・スタンダー ドではないということである。 「自己責任」の国とされるアメリカでも、ペイオフはほとんど実施されていない。

1988年から93年の6年間について言えば、破綻件数の5%、しかもその多くは預金規模7―80億円程度の、日本では考えられない小規模な銀行の破綻処理で実施されてきたにすぎない。94年以降はペイオフの実施は皆無である。

第2は、少なくとも、日本の現状はペイオフを実施できるような環境にはないということである。

アメリカでまれにペイオフが実施できるのは、何よりも付保預金(支払いの対象になる1口10万ドル以下の預金)の比率が高いことにある。近年破綻処理の対象になってきた小規模銀行では預金の9割以上が付保預金である。したがって、仮にペイオフを実施したとしてもその影響は比較的小さくて済む。 これに対し、日本では付保預金(1口1000万円以下の預金)比率は4割を切るといわれている。これは、日米間の金融機関数の違いや日本独特のメイン バンク・システム ――このため預金を分散することが難しい――等の事情に起因している。こうした基礎条件を無視して、闇雲にペイオフを日本で実施すれば、パニックが生じかねないことは誰の目にも明らかである。

第3に、今日の議論は、その問題設定のあり方そのものから立て直す必要があるということである。そもそも、ペイオフをめぐる問題は、預金の全額保護のもとでは「銀行経営の健全性を維持するモチベーションが希薄化しはしないか」とか、あるいは「銀行の破綻処理のコストが大きくなりすぎはしないか」といったことから発している。

とすれば、何よりもまず、問題は「銀行経営の健全性を促す仕組みをどのように確立するか」、あるいは「破綻処理のコストをできるだけ少なくするにはどうしたらよいか」といった形で立てられるべきである。ペイオフ導入は、あくまでも、その解決に向けての一つの選択肢として検討の対象になるにすぎない。それを恰も「世界」のスタンダードであるかのように前提して導入時期の適否を論議するという今日のあり方は、根本的に見直す必要がある。

(3)

さて、上記3つのことを総合してみれば、結局こういうことになる。安易に ペイオフが実施できない日本の金融的基礎条件のもとで、「銀行経営の健全性保を促す仕組みをどう構築するか」、また「破綻銀行の処理をどう低コスト行うか」、私達はこうした問題の解決に向けて、日本独自のやり方を見出す必要があるのだということである。

金融危機の国際連鎖が懸念される現代、その未然の防止と発生時の対処に向けてグローバルなルールと協力が必要であることはいうまでもない。しかし、そのことは、各国それぞれの基礎条件の違いを無視して、金融行政や危機管理のあり方を統一すべきだということではない。その危険性はアジア通貨危機で実証済みである。

冷静にジャパニーズ・ウェイを探り、その正当性をきちんと国際社会に向けて説明していく――グローバル・スタンダードの幻影におびえることなく、むしろこうした姿勢を貫くことこそが、日本が国際社会から信頼を得る唯一の道であることを認識する必要がある。

1999年11月筆

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