経済・金融政策に関する提言

金融アセスメント

「怒り」を「知恵」にかえて今こそ「金融アセスメント法」を制定しよう

2.今こそ「金融アセスメント法」を制定しよう

第2部 対談:金融アセスメント法

中小企業をとりまく経営環境の改善を目指して
福岡県中小企業家同友会代表理事
中村高明氏[(株)紀之国屋取締役社長]に聞く

山口

各県にある中小企業家同友会のうち、いち早く福岡県中小企業家同友会の理事会が「金融アセスメント法」の支持を決定して下さいました。それを聞いて、私は大変勇気づけられたのですが、今日は同会の代表理事である中村社長に、中小企業をとりまく金融環境やそれをどう改善していくべきかといったお話についてお伺いしたいと思います。

中小企業は「中小企業である」ということ自体のうちに不利を負っている

中村

中小企業家同友会は、「良い会社をつくろう」「良い経営者になろう」 「経営環境を改善しよう」という3つの「目的」をかかげて、異業種の中小企業経営者たちが自主的に組織し、学び、活動している団体です。

ところで、この3つの「目的」のうち、「良い会社をつくろう」「良い経営者になろう」という2つの「目的」については、経営者の団体である以上、あ らためて強調するまでもなく、その重要性は十分に認識されてきました。実際、これまで、多くの経営者ないし会社が、同友会を「学びの場」として活用することで発展を遂げてきました。

しかし、「経営環境を改善しよう」という3つめの「目的」については、よほどしっかりと意識していないとどうしても軽視されがちになりますし、実際問題として何をやったらいいのかというのもどうもはっきりしないところがあります。

今回、私達は「金融危機」というものを経験したわけですが、そのなかで多くの経営者が実際に被害を受けたり、あるいは憤りを感じたりして、あらためてこの3つめの「目的」が本当は重要なんだということを実感させられたんです。

山口

と言いますと…

中村

一言でいえば、中小企業は「中小企業である」ということ自体のうちに不利を負っている、このことを思い知らされたということです。「貸し渋り」 「貸し剥がし」が問題になってからの都市銀行の貸出残高を調べてみると、たしかに中小企業向け貸出は減少していますが、大企業向け貸出は減っていないんです。

では、なぜ中小企業ばかりが「貸し渋り」「貸し剥がし」にあわなければならないのか。

その理由は簡単で、要するにそれは「中小企業だから」なんですね。つまり、中小企業の場合には、銀行との関係がまずくなっても、銀行にとってその影響が小さい。だから、「貸し渋り」「貸し剥がし」の対象になる。「延滞もしてないのに、急に返せはないだろう。そんな事なら、これからもう取引きしない ぞ」といったことを、中小企業経営者が銀行に言ったとしても、銀行は「それ ならそれでいいです」なんてことを平気でいうわけです。

これは、まさにその企業が健全か不健全かといったことではなく、それが中小企業だということ自体によって受ける待遇だということを示しているわけです。

資金調達の不安定感が、経済低迷の要因になっている

山口

実際に、「貸し渋り」「貸し剥がし」を体験した企業は、どれくらいに上るんでしょう

中村

今年(一九九九年)八月に中小企業家同友会全国協議会が行った全国調査(回答数三二七〇社)によると、九七年秋以降、「貸し渋り」「貸し剥がし」を体験した企業は、回答企業数の一八%に上っています。「関東」地域ではとくに高く二五%、五社に一社という割合です。それから、公的資本が注入されるようになってから、こういう状態に変化が現れたかという問いに対しては、「緩和した」と答えた企業は一二%に止まっていまして、その三倍の三六%が「緩和していない」と答えていますし、さらに「より厳しくなった」という企業も一〇%あるという状態です。

私たちからすれば、まさに「公的資本注入とは一体なんだったのか」といった感じですね。先生のいわれるように、「金融の公共性」ということがあらためて問われる状況です。

山口

そうですね。それに、今回のような目に会うと、多くの中小企業が金融機関からの借入を非常に不安定なものだと感じるようになってしまいますよね。そのため、最近では「銀行からの借入金は早く返して、あとはなるべく借りないようにしよう。企業の安定のためには、そういう姿勢が必要なんだ」といった具合に考えている経営者が急速に増えてきているように思います。

これでは積極的に借入をして事業をやろうという経営者が減ってしまいますから、日本経済の低迷を長引かせる要因になります。

中村

そのとおりです。資金調達が不安定になるという点では、いわゆるペイオフの問題でも同じです。同友会の調査では二〇〇一年四月に予定されているペイオフの解禁について、「延期すべきである」と回答している経営者が三六%、「解禁すべきでない」という経営者が三四%もあります。両者を合わせると七割の企業がペイオフ解禁に反対しているという結果が出ています。

理由は、仮にペイオフが実施されるなら、もっぱら中小金融機関の破綻の際に実施されることになるとか、あるいはペイオフのことを心配して中小金融機関から預金が逃げ出して、中小企業金融に支障が生じるのではないかといったことを懸念していることにあります。

さらに言えば、現実には、中小企業は事実上の拘束預金として定期預金を積まされているわけですが、ペイオフが行われた場合、定期預金と借入金との相殺が可能になるのかどうか、相殺できないで、金融機関が破綻したために預金は失うのに借金だけは残されるというのでは踏んだり蹴ったりですから、この点も皆大いに心配しています。

要するに、中小企業はこの数年間金融面で非常に不安定な状態に陥れられたけれども、その不安定さは将来も無くならないと感じている。これでは、先生の言われるように、銀行から資金を借りて事業を拡張しようとか、あるいは新たに始めようという気持ちにはなかなかなれない。やっぱり、経済はしぼんじゃいますよね。

山口

だからこそ、金融アセスメント法を制定して、金融機関経営の健全性だけでなく、社会の末端にちゃんと資金が巡っているかどうかといった観点から金融機関の活動を評価していく仕組みが必要なんです。

ところで、同友会の調査では、「いま金融機関に何を望むか」といった設問もありますよね。

時代にそぐわない金融慣行をあらためないと、経済が元気にならない

中村

ええ。「いま金融機関に望むことは何か」という問いに対して、複数回答が可能な形で選択してもらったのですが、結果は、「物的担保ばかりに依存する現在の姿勢を改めるべき」というのが六六%でトップ、「融資の際に社長以外の連帯保証を求めない」というのが四七%で二番めになりました。三位が「事業リスクに応じた金利設定など融資の多様化をはかるべきだ」というもので、四二%。そして、「融資の際、個人保証を求めない」が三三%で、これに続いています。

中小企業経営者達の気持ちが非常によく表れていると思います。

山口

これも、中小企業経営者のわがままな望みだといって済まされない問題ですね。

日本経済の発展を願うなら、早急に解決しなければならない問題なんです。

例えば、銀行の「担保主義」、とくに「土地担保主義」ですが、これは、地価が右肩上がりの状態で推移していた時代であれば貸出活動を促進する作用をもつけれど、現在のように地価上昇が見通せない、反対に一層の下落が見込まれるといった時期には、貸出活動を抑制させる方向に作用します。だから、銀行がこうした姿勢を続けている限り、なかなか金融面から経済を活気づけるような力は生まれてこないということになります。

同様のことは、「個人保証」 だ、「連帯保証」だといった形で、借り手にばかりリスクを負わせてきたこれまでの金融機関の姿勢についても言えることです。

今日のような低成長時代では、新規に事業を起こすことはもちろん、事業を継続しようとするだけでも多くのリスクを伴います。そういう時代に、かつてと同様、「個人保証」や「連帯保証」の厳しい徴求によって、一方的に借り手にリスクを負わせる姿勢を金融機関が貫くなら、資金を借りてまでも事業を起こそうとか、あるいは事業を拡張しようといった経営者はますます減少することになります。

中村

「貸し渋り」批判に対して、金融機関の方々からは「貸し渋りではない、良い借り手がいないだけだ」といった反論が聞かれますが、「良い借り手」というのがどういう借り手なのか。 担保をいっぱい持っていたり、しっかりとした「連帯保証人」がついている借り手のことを指すのだとしたら、「良い借り手」は本当に限られてしまいますよね。

たしかに、現在でもそういう借り手に対する貸出攻勢はかなりあります。しかし、そんな借り手はそれほど多くはいない。銀行がきちんとリスクを評価し、同時に自らそれなりのリスクを担うんだという、そういう姿勢がなければ貸出機会は増えてきませんよ。経営者は、そういう姿勢を求めてるんです。そして、そのリスクに応じた金利であれば、多少高くてもしょうがないということになる。

ところが、現在では、そういう多様な金利設定というのではなくて、一切貸せないといったことになってしまう。この辺りから変えていかなければならないと思うんです。

「金融アセスメント法」を巡る議論や中小企業経営者の運動のなかで、徐々にしろ変化が起きてくることを期待しています。もちろん、経営者の側も、経営指針の成文化、経営戦略力・商品開発力・技術力・販売力・財務力などを高める努力が必要ですし、公私混同型の経営者にならないよう襟を正していくことが必要であることはいうまでもないことですが。

「中小企業経営者発、民間シンクタンク経由、国会へ」という新しい政策形成ルートができつつある

山口

実は、「金融アセスメント法」を提言しようということになった最初のきっかけは、中小企業経営者の方々からの問題提起だったんです。 私は、愛知県の中小企業経営者の方々二十人程と「アントレ会」という定期的な勉強会を開催しているのですが、経営の勉強、経済の勉強ということだけでなく、中村社長のいわれる「経営環境の改善」に役立つようなことを何かできないだろうかといったことを彼らの側から言いはじめたんです。

彼らは愛知の中小企業家同友会のメンバーでもあるんですが。その問題提起を受けて、二十一世紀政策構想フォーラムの方で検討を積み重ねたり、また経営者の方々と刷りあわせをしたりといったプロセスを経て、ここまで来たんです。

現在では、議員立法化に向けて真剣に努力して下さっている政治家の方々も現れました。いわば、「中小企業経営者発、民間シンクタンク経由、国会へ」という新しい政策形成ルートが出来つつあるんです。

中村社長が代表理事を務められている福岡県中小企業家同友会も、自分達自身の問題として、同法の制定を積極的に推進する姿勢を示して下さっていますが、これを機に、その他のいろいろなことでも、経営者、学者、民間シンクタンク、政治家など、様々な人々が、それぞれの立場を生かしながら、現実問題の解決に向けてともに努力していく幅広い協力関係が形成されることを願っています。今日は、本当にありがとう。

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