「怒り」を「知恵」にかえて今こそ「金融アセスメント法」を制定しよう
山口
今日はどうもありがとうございます。
静岡経済同友会から依頼を受けて、「金融アセスメント法の意義」というテー マで講演をさせて頂いたのが、今年(一九九九年)の七月でした。
その際、代表幹事の岡田社長をはじめ多くの方々から賛意を表明していただき、そのつながりで、十月には静岡県の機械金属工業協同組合連合会の研修会でも、同様の講演会が行われることになりました。私は、大変ありたいと思っています。
さて、今日は、こうした経緯を踏まえて、岡田社長から「いま金融機関に望むこと」といったテーマでいろいろお話をお聞かせ頂けたらと思います。
実は、先の経済同友会での講演会の際、代表幹事挨拶で岡田社長がアメリカでの体験をお話されていた、そのお話が大変印象に残っているのですが。
岡田
私の会社は工作機械関係の仕事をしているのですが、アルミ材を使った金型の超高速の加工機四台を売った時のことです。
その相手会社のアメリカ工場で、たまたま最終的な打ち合わせも終わって、これからオーダーをもらおうかという時に、銀行から人が来たんですよ。七名くらい。男性も女性もなかなかの面構えの人たちでね。そこの社長に、「なんですか?」って聞いたら、これからある事業をするにあたって、新しい銀行からヒヤリングに来たということだったわけです。「いっしょに立ち会ったら」と誘われたので、その様子を見ていたのですが、日本の銀行の場合とはずいぶん違うなって感じがしたんですね。
その事業の将来性について、社長との面談は当然にしても、財務部長から製造現場の主任まで面談するんですね。そして、この事業が成り立つかどうか、そのリスクを評価して、お金を出すというわけです。うちの副社長が質問をさせていただいたのですが、極端なことを言うと、貸借対照表は関係ないって言うんですよ。もちろん、関係あるんだけど、極端な言い方をするとそんな感じなんですね。あくまでも、大事なのは、これから事業がどう展開していくか、どう採算性に乗るかだ。そういうことが重要だと言うのですよ。貸借対照表に表されているのはあくまでも「過去」でしかない。大事なのは「将来」なんだと断言していました。
私は日本の銀行が悪いとはけっして言っていない。実際、私どもの取引銀行は、私どものことをよく知ってくれていますし、積極的に支援してくれていますから。ただ、一般論として言えば、日本の銀行は、こういう「事業の将来に」 おカネを貸すという姿勢がない。もちろん、日本の場合、中小企業の方にも問題がある。将来の事業計画などに対して、明確な哲学とか方針というものを持っていない。だから、そのために銀行も及び腰になるという面がある。
岡田
日本の金融機関のどこがまずいかというと、要するに担保主義だからだと思うんですよ。したがって、リスクを評価する能力が育たない。借り手企業が潰れても担保が取ってあるし、個人保証も取ってるんだからいいじゃないのかとね。
山口
リスクに甘くなるわけですね。
岡田
そう、杜撰になってしまう。だから本当は、担保や保証に頼らないという風になっていかなくてはいけない。そうでないと、安易なおカネの貸し方になる。また、その個々の企業に対して深く関わるという姿勢が希薄になる。ともに事業を展開するというパートナーシップ的な意識が薄れていってしまう。それが一番問題だと思うんですよね。
山口
とくに日本の場合にはずっと「土地神話」があって、これが担保を取っていれば安全だ」という神話を作り出してしまった。
しかし、「土地神話」はもう崩壊したんだがら、銀行のそうした姿勢も変わ らなければいけない。銀行が変われば、企業の方もおカネを借りなきゃいけないから、先程言われたような事業計画といったようなものももっとキチンとしたものを作って、銀行に提出するようになる。差し当たってどちら側から変わ っていくかということはあるんだけど、とくに銀行側がどう変わって行くかというのは決定的な影響を与えますからね。
しかも、とくにバブル期に行員がそういったリスク評価能力を失ってしまっていますから、大いにがんばって努力してもらわないといけない。もちろん、銀行側に要求する以上は・・・
岡田
我々も変わっていかないとならない。
山口
そう。そういうお互いを高めていくような構造を創り出していくことが必要なんですね。よく「間接金融はもう古い。これからは直接金融だ」とい った議論をする人がいますが、先程言われたパートナーシップ的な関係で「育てあう」というか、そういうのは間接金融が独自に持っている役割だと思うんです。だから、間接金融は非常に重要なんです。
「金融アセスメント法」というのは、間接金融が本来担うべき機能はどういう ものなのか、そういう視点から金融機関の評価基準を探っていく、そしてそういう基準で評価を行うことで、大切な機能を担っている金融機関への励ましや モチベーションづくりをしていこうというものなんです。
ところで、「貸し渋り」、「貸し剥がし」については、どうですか。
岡田
最近の状況じゃあ、当然起きると思っていましたし、実際あちこちで見聞きしますね。
ただ、世間の人達に知っておいてもらいたいのは、けっしていわゆる「問題企業」だけが、「貸し渋り」や「貸し剥がし」に合っているわけではないということです。「貸し渋り」はやはり銀行側の事情に起因している面がかなりあるし、「貸し剥がし」というのは、簡単に言えば、「取りやすいところから取っていく」ということです。
だから、ちゃんとした企業まで疲弊していって倒産したり、倒産しかかっている。身近な例でいうと、私の親戚の者が、旦那が死んで二十年立つので、アパートを建ててその家賃の中から生活費を賄おうと、某信託銀行から資金を借りていたんです。六−七年前に四千万円くらい残っていた借金が、半分の二千万円くらいに減ったんですよ。
そしたら、突然、残りを返せとしつこく言ってくるんです。三年前ぐらいかな。朝に晩に言ってくるんですよ。私が保証人になってるから、結局私の会社の取引き銀行から、私が個人的に借金をしてそれで返したんだけど、ひどい話しですよ。今では、返さないで放っておけば良かったと思っています。だって、「延滞」起こしているわけじゃないんですから。銀行の方が契約違反じゃないですか。こんな悔しいというか、理不尽な思いをしている中小企業が全国にいくつもあるんじゃないでしょうか。
岡田
公的資金を投入したという事実があるんだから、銀行は普通の民間企業とは違んだということを制度としてもっとはっきり認定すべきだと思いますね。だから、「貸し渋り」や「貸し剥がし」が問題だというのはもちろんですが、経営者や役員の経営責任についても、特別の法律によって民間の一般企業の場合とは違うもっと厳しい規定をつくるべきですよ。我々からは個人保証を取っておいて会社が潰れればみんな取り上げるようにしているのに、自分たちは公的資金で助けてもらっても、あるいは破綻させても、私財を投げ出すどころか、退職金だって返さないといって威張ってるんだから。アメリカでは二十年くらい溯って刑事訴追できるそうだけど、日本でも金融機関の経営者は特別な存在として、普通の経営者より厳しい罰則規定があってしかるべきだと思いますね。先生も、「金融アセスメント法」だけでなくて、そういう法律の制定を提言することもやってほしいですね。
山口
私も、何か特別な「金融法人」法のようなものを制定して、金融機関とくに預金を取扱う金融機関が最低限担わなければならない「公共性」を明確にしたり、経営者の責任についても一般の企業とは違う、より厳しい追及が可能になるような仕組みが必要だと考えています。二〇〇一年四月から「ペイオフを解禁すべきだ」という声があります。ペイオフを導入しないとモラルハザードが起きて、金融機関の経営がいいかげんになるからだというのがその理由のようです。
しかし、一千万円以上の預金が戻ってこないという形で、いわば預金者の「自己責任」を問うことで、金融機関経営の規律を維持していこうという発想自体が、私は問題だと思っています。そういうことを言うのであれば、その前に金融機関の経営者の「自己責任」をどういう形で問うのか、まずその点をはっきりさせるべきです。このままだと、ペイオフが実施されたために預金という蓄えを失って企業が倒産するということが起きかねないわけですが、そしてその場合、個人保証を取られて事実上の無限責任」を負わされている中小企業経営者やその家族は「路頭に迷うことになる」かもしれませんが、そういう時でもその金融機関を潰した経営者の個人資産はしっかりと守られることになるでしょう。これはどうみてもおかしいですよね。
いずれにしても、私達日本国民は近年金融危機を経験して、いろいろなことを学ばされました。そういう貴重な経験をどう生かしていくか、今問われているのはこの点です。この経験を生かして、後世の人々に、どんな制度や法律を残していくのか。今こそ「怒りを知恵にかえる」べきだと言って、私達が「金融アセスメント法」を提言しているのも、そういう趣旨にもとづくものです。
しかし、何といっても、岡田社長のような、現場で日本経済を担っておられる方々がどのような発言をされていかれるのかがやはり一番重要です。そういう意味で、今後の一層のご尽力をご期待して、この対談を終えたいと思います。今日は、本当にどうもありがとうございました。
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