山口義行の“コレが言いたい”

第23回 "祭りの効用"をもっと重視しよう!

夏の風物詩といえば、花火、かき氷、浴衣、そしてお祭り。

今年も全国各地で多くの夏祭りが行われた。

古き良き伝統を今に受け継ぐ日本の祭り

夏祭りという言葉を耳にするだけで、心がうきうきしてしまう人も多いのではないか。夏祭りは日本人にとって、生活に根付いた欠かせない行事となっている。「コレが言いたい」の第23回は、経済的な側面もさることながら、この夏祭りがどのような効用をもたらしているのか、探っていきたいと思う。

関東一の祇園祭:熊谷うちわ祭り

40度を越す猛暑日で有名な埼玉県熊谷市。ここでは毎年7月20〜22日に「うちわ祭り」と呼ばれる祭りが開催される。この祭りでは、およそ800店の露店が立ち並び、集客数は三日間でのべおよそ75万人にも上る。

うちわ祭りは、250年以上もの歴史を持つ、関東一の規模を誇る祇園祭である。江戸時代に、祭りの期間中各商店が買い物客にうちわを配布したことが評判となり、こう呼ばれるようになった。

祭り期間中は国道17号線を歩行者天国として開放し、12の市街地がそれぞれ豪華な山車や屋台を引き回す。市は、お祭りの三日間のために、山車が通りやすいようにと中央分離帯を地中に埋め込むことができるように可動式にした。また、山車の高さを考慮して、信号機も高さ調節のできるものを設置した。まさに、町全体を「お祭り仕様」にするという力の入れようである。

熊谷うちわ祭夜になると、ますます多くの人でにぎわうようになり、さらに盛り上がりを見せる。12の山車や屋台が一堂に集まり、お囃子の「叩き合い」が行われる。それぞれが相手のリズムに乱されないよう競い合ってお囃子を奏でる姿はまさに圧巻である。

子供から大人まで、世代を超えて愛されるうちわ祭り――では、地元の人々にとって、熊谷うちわ祭りとはどのような存在なのであろうか。

今年のうちわ祭りの総責任者を務めた重竹淳一氏は、次のように話す。 「お祭りの中心になる人たちは、街の経済人が多いけれども、それを支えてくれる多くの人たちの存在がある。祭りをやることで、たくさんの人たちがお互いを身近に感じるようになる。見聞きするのはいい情報ばかりではない。街の厳しい現状を見せつけられることにもなる。『あそこの家は商売をやめた』とか『また商店街にシャッターが増えた』とか『あそこ家族は郊外に引っ越していった』とか。でも、うれしいことも、残念なことも、お祭りがないと何も知らずに過ぎてしまう。祭りは、自分たちが住んでいる地域を知る絶好の機会なんです」。

熊谷市市役所商業観光課の長谷川泉課長も、こう言う。

「小さなころからお囃子の音を聞いて育つことが、地域への愛着を生んでいると思います。そういう意味では、熊谷うちわ祭りは人口の流出を食い止める一つの手段にさえなっている」。

このように、うちわ祭りは、自分たちの住んでいる地域を一人ひとりが意識する貴重な機会を提供している。それはまさに、熊谷市民にとって、町と人とを結びつける重要な役割を果たしているのである。

祭りの効果は?

さて、「祭りの効用」を一般的に整理してみると、以下の三つが考えられる。

  1. 観光イベントとしての経済効果

    祭りは観光イベントとしての側面を持っているため、大きな経済効果が期待できる。表1は東北6大祭りの経済効果を数値化したものである。これを見ても明らかなように、祭りにはかなり大きな経済効果がある。

    (表1)東北6大祭りの観光消費支出 (2007年)

    また、ある部門の消費が伸びると、それがどのくらいの効果を発揮して、どれくらいの生産を誘発するかを計算したものを産業連関表というが、これに表1の観光消費支出を当てはめて算出したものが表2である。これを見ると、生産誘発額は1,718億円にもなる。

    (表2)東北6大祭り 経済波及効果

    また、粗付加価値誘発額は1,026億円に上る。たとえば500円の原材料から、1500円の商品を生産すると、原材料費500円を除いた1000円分の価値が新しく作られたことになる。この部分を付加価値と呼ぶ。これを合計したものがGDPである。1,026億円の粗付加価値が誘発されるというのであるから、東北のGDP約33兆円のうち0.3%分は6大祭りの効果によるものであるという計算になる。祭りの経済効果がいかに大きなものであるかが分かる。

  2. 地域の認知度アップ

    二つ目は地域の認知度が上がるという点である。「青森といえば、ねぶた祭り」。「七夕祭りといえば、仙台」といった具合に、地域を語るばあいには、「祭り」がその代名詞になることが少なくない。その意味で、祭りは、地域ブランド戦略に欠かせない一つのツールとしての意味をもっている。

  3. 地元の結束を強化

    三つ目は地域の結束力を強化するという点である。

    祭りがあると、それをきっかけにしてその町の住民が集まる。人が集まるところに地域の情報が集まり、地域が抱える問題を住民が共有する機会にもなる。それが問題解決にもつながっていく。

    実際に、祭りがきっかけとなって、地域の抱える問題を住民たちで解決した町がある。

    群馬県前橋市日吉町に、祭りを開催する母体として「飛組(ひぐみ)」というNPO法人を設立された。神社があったわけでもないのに、祭り好きが集まり、家が一軒建ってしまうほど高価な山車や御輿などを買いそろえ、りっぱな祭りを実現させた。

    その準備の過程で、「最近、町内で盗難が多い」ということが話題になり、みんなで問題解決に取り組もうと話が盛り上がった。祭りの実行メンバーの中にたまたま電気工事関係者がいたため、防犯用のセンサーライト取り付けが提案された。早速、希望する世帯にセンサーライトを工事費無料で設置するというボランティア活動が始まった。こうした活動がまた住民同士の交流を深めることになる。今まで言葉を交わしたこともなかったような住民たちの間でもふれあいが増え、そこでまた様々なアイデアが提案されるようになる。防犯カメラの設置、防犯パトロールの実施など・・・。こうして、「町の安全を自分たち自身の手で守ろう」という気運が盛り上がっていった。こうした活動が評価されて、この町は「安全安心な街づくり功労賞」という総理大臣表彰まで受けている。

    地域のコミュニティーが本来持っている問題解決能力を、祭りがよみがえらせた事例である。(参考 西原勝洋「祭りの効用―山車・神輿からブルパトが」『月刊地域づくり』08年5月号)

消えていく祭り

他方、地域にある程度の活力がないと、祭りを実施すること自体が難しくなるというのも事実である。実際、各地で「祭りが消えていく」という現象が起きている。表3にも見られるように、ここ数年だけでも、多くの祭りが中止になっている。

(表3)中止になった祭り

一つは経済的な理由。地域経済が落ち込むことで、自治体の税収が減り、援助が難しくなって、結果として祭りを取りやめてしまうということが起きる。大阪の御堂筋パレードでは予算が三分の一にまで削られ、パレードを断念せざるを得なくなった。

このように祭りがなくなっていくのは、町のエネルギー低下を表している。とくに、商店街の衰退は、祭りの担い手の喪失をもたらしている。また、地方から若者が消えていることも祭りの実施を難しくしている。祭りの消滅は、今の日本の経済や社会の構造的問題を映し出している。

「コレが言いたい」――祭りの効果を見直せ!――

地方自治体の財政難から、祭りが取止めになるという例が後を絶たない。しかし、以上見てきたように、祭りには経済効果も含め、非常に大きな効用がある。むしろ、祭りを活用して街を元気にしていくという発想が求められる。

たとえば、最近「ふるさと納税」が話題になっているが、「祭りの存続」を訴えることで、全国に納税者を増やすという戦略も考えられる。「自治体の財政難のために、慣れ親しんだ祭りが消えていくのは忍びない」。そう感じたその地域の出身者たちが、全国各地から納税に応じるということは十分にありうることである。また、自分の資金供与で維持された祭りであれば、「祭り期間中ぐらいふるさとに戻ろう」と考える人も増えるかもしれない。さらには、それがきっかけで、「定年退職後は、ふるさとで過ごしたい」と考える人も増えるかもしれない。全国に散らばった人たちが「戻りたい」と感じる街づくりを地域は実践していく必要がある。

祭りの効用――今一度真剣に考えてみるべきテーマである。

(2008/8/18 執筆)

上記は、2008年08月03日に放映された「こちら経済編集長」(BSジャパン)というTV番組の中の「編集長のコレが言いたい」というコーナーで、私自身が主張した見解を基礎にしている。しかし、その際の内容を訂正したり、それに新たな情報を付け加えたりした部分もあり、けっして番組での発言をそのまま文章化したものではないことを留意されたい。

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