話し手:山口義行(立教大学教授)
聞き手:平田美穂(中小企業家しんぶん)
Q1
公的金融の資金の入り口である郵政民営化が決まり、資金の出口を改めないと公的金融改革は完結しないといわれ、その大きな出口が政策金融であるとされていますが?
A
たしかにそういう言い方がよくされますが、実は政策金融は「大きな出口」ではないんです。政府系金融機関(除住宅金融公庫)の財投・簡保からの借入残高は三十二兆円程度で、これは三百五十兆円といわれる郵貯簡保資金の一割に満たない金額です。五十二兆円の借り入れをしている住宅金融公庫を入れるとたしかに「大きな出口」ということになるんですが、住宅金融公庫はすでに廃止が決まっていて今回の「改革」の対象にはなっていません。住宅公庫の廃止で「大きな出口」論はすで根拠を失っているといえます。
Q2
政府系金融機関は「民から官への資金の流れ」を仲介していると言われていますが?
A
地方自治体に資金を流す公営企業金融公庫を経由する部分を除くと、政府系金融機関を通した資金の流れは、郵便局によって「民」から集められた資金がそのまま再び「民」へと還流する、つまり「民から民へ」という流れの部分です。郵貯改革を通して「民から官へ」行く資金の流れを変えるんだと言いながら、真っ先に政府系金融機関の改革から手をつけはじめるというのは論理的にはまったく辻褄が合いません。
Q3
「財政改革(財政支出の削減)に役立つ」と言われていますが?
A
今回改革の対象になっている八つの政府系金融機関に対し、補給金などの形で投入されている財政資金は合計しても年間千三百億円です。したがって、これら機関を仮に全廃したとしても、支出削減効果は一般会計歳出規模の〇・一五%にしかなりません。
ちなみに、八機関の総貸出残高九十兆円のうち、最大の貸し手である公営企業金融公庫(二七・七%)は政府からの補給金受け入れはゼロ、三番目の政策投資銀行(一五・五%)もゼロ、四番目の商工中金(一〇・七%)もゼロです。この三機関あわせただけで貸出比率は五三・九%に達しますが、これらを全廃してもーーそれによって政府金融の貸出残高を半減させたとしてもーー財政削減効果はゼロです。
二番目に貸出額の大きい国際協力銀行(二二・〇%)への投入額は三百億円ですから、これも全廃して、総貸出を七六%減らしても、財政削減は三百億円にしかなりません。つまり、財政改革という観点からしても、「次の改革は政策金融だ」という主張は成り立たないのです。
Q4
民間金融機関の不良債権の処理がヤマを越えた今、政策金融のマイナス面を考え、大胆に改革すべきだといわれていますが、どうなのでしょう。
A
「不良債権処理がヤマを越えた」ことは、今後の民間金融の安定性を保証するものではありません。数年前の大変厳しい「貸し渋り」のなかで、中小企業金融の安定性を確保する上で政策金融の果たした役割が大きかったことはだれしも認めるところです。
多くの時間と犠牲を伴った「不良債権処理がヤマを越えた」今こそ、市場原理にすべて委ねるのではない政策金融の重要性が、あらためて強調されてしかるべきです。不良債権問題のきちんとした総括もなしに、「ヤマを超えた」から云々という議論は、「喉元過ぎれば、熱さを忘れていい」と言っているのと同じです。
Q5
政策金融は退出すべき企業を温存させ、経済活性化を阻んでいるという主張もありますが。
A
「低金利で無担保のものが多い政策金融のせいで、潰れるべき企業が潰れないで温存させられている。このことが経済活性化の足かせになっているんだ」という主張ですね。
しかし、「低金利で無担保」の融資が多いことが事実だとすれば、むしろそのことは経済活性化に貢献した要因として政策金融が評価されるべき点でもあります。なぜなら、それらは、そうでなければありえなかった起業や事業拡大を可能にしたからです。
利益の薄い企業に高金利を要求すれば、どんな企業でもつぶれてしまいます。そうされないことで「温存」されている企業を「本来なら市場から退出すべき企業」と判断すべきかどうかは簡単ではありません。そうして「温存」された赤字企業が後にりっぱな企業に成長したというケースはいくらでもあるからです。
最近は金融庁でさえ、金融機関に対し、赤字の融資先企業を簡単に切り捨てさせるのではなく、むしろ企業支援を促す方向に転換してきています。「市場からの退出」を求めているだけでは、経済活性化など覚束ないことを理解してきたからです。
Q6
政策金融の甘い基準は不良債権を増加させ、税金投入を必要にするなどといわれていますが。
A
民間金融機関でも不良債権が大量に発生しました。この一事からしても、政府系金融機関の「甘い基準」が原因で不良債権が発生したといった主張は正当性をもちません。また審査基準が問題だというなら基準を改めればいいことであって、政策金融の縮小や再編の問題ではありません。
Q7
政府系金融機関には、補給金などの財政資金を年間五千三百億円も投入しているということをある新聞の社説で読んだんですが。
A
補給金等の五千三百三十九億円のうち、四千四十四億円は住宅金融公庫向けです。住宅金融公庫はすでに廃止が決定しており、今回の政策金融改革には含まれていません。その社説の論説委員は政策金融改革が財政支出の削減に役立つことを強調したくて、住宅公庫分を含めた数字を挙げたんだと思いますが、これは明らかにインチキ。その新聞の品位が疑われますね。住宅公庫を除けば、財政支出は千三百億円ほど、一般会計歳出規模八十六兆九千億円の〇・一五%にしかなりません。
Q8
政府金融の残高を半減することを目標にしているようですが。
A
内閣は二〇〇八年度に改革を実施するほか、政府金融残高の国内総生産(GDP)に対する比率(約一八%)を半減する方針のようです。しかし、むやみな融資残高の縮小は、金融機関のリスク負担能力を低下させ、損失補てんのための財政支出をかえって増加させる可能性があることを忘れてはなりません。
間接金融が企業育てに適しているのは、いわゆる「玉石混淆」で多様な融資先を数多く抱えているからです。融資先の一部がデフォルト(債務不履行)を起こしても、その他の優良企業への融資がたくさんあるから、金融機関は決定的な損失を被らないですみます。だからこそ、金融機関は財務上問題のある企業への融資をあえて実施・継続してその企業を育てることもできるのです。ここに間接金融の優位性(バンカー機能)があります。この点は、政府系金融機関においても同じであり、政府がむやみにその融資残高を縮小するよう強制すれば、政府系金融機関のリスク負担能力が低下し、結果として損失補填のためにより多くの財政支援が必要になるということにもなりかねません。
Q9
他の先進国では直接融資が少ないというのが政府系金融機関の融資残高「半減」の根拠のようですが。
A
日本の経済パフォーマンスが他の先進国より劣っているとは思えません。たとえば、日本の中小企業の国際競争力は他国より高く、そのことが日本の経済的強さを支えています。その日本が、他国の中小企業金融政策を見習い、政策融資の規模も他国並みにしなければならないというのは、それ自体としては説得力のない主張です。また、日本が他の先進国よりパフォーマンスが劣っている点といえば財政赤字が大きいことですが、先に述べたように今回の政府金融改革のもつ財政支出の削減効果はきわめて小さく、これも「他国を見習って政策金融の融資額を小さくせよ」という主張の根拠にはなりません。
Q10
「民業圧迫だから融資削減」といっていますが。
A
いわゆる「民業圧迫」論というのは、政策系金融機関の直接融資が民間金融機関の活動に有利に作用している面を見落としています。たとえば、国民金融公庫からの借り入れで開業資金や運転資金をまかなってきた中小事業者が、事業拡大のための資金を民間銀行に求めることは多くあります。また、銀行もそうした事業者の実績をみながら融資に応じることが少なくないのです。つまり、国民金融公庫など政府系金融機関の融資が民間金融機関の貸出機会をつくりだしたり、そのリスクを軽減させたりすることに役立っているのです。そうだとすれば、むやみに政府金融の融資縮小が実施されれば、そのことがかえって民間金融機関の融資機会を減少させたり、そのリスクを増加させてしまうことにもなります。
さらに言うと、政府金融が「民業圧迫」になっている場合といえば、優良な融資先を官民双方が奪い合うような状況ですが、こうした問題に対しては「融資額の縮小」ではなく、「協調融資原則の徹底」によって対応すべきです。なぜなら、融資の縮小は政府金融機関のリスク負担能力を減少させるため、融資縮小が強制されればされるほど、政府系金融機関は優良な企業へとターゲットを絞らざるをえなくなり、かえって民間金融機関との顧客の奪い合いが増幅される可能性があるからです。
Q11
中小企業金融公庫は民間融資の証券化支援を主体にすべしとの意見もあるようですが。
A
中小企業向け債権の流動化は容易ではありません。住宅ローンと違って中小企業向け融資はリスクが高く、また多様であるため、証券化が難しいことは米国で実証済みです。
また、民間金融機関が中小企業向け貸出債権を売ってしまえば、その企業との永続的なパートナー的関係が絶たれてしまいますから、政府が推奨している「リーションシップバンキング」とも矛盾することになります。
Q12
国民金融公庫による無担保・低利融資は「経済政策」ではなく「社会政策」だという人もいますが。
A
国民金融公庫の無担保・低利融資のおかげで開業が可能となった個人事業主の会社が、「家業」から「企業」へという成長過程をあゆみ、やがては地域の雇用創出に大きく貢献し、また民間金融機関の融資先として重要な役割を果たすようになる。現実にはそういう事例はいくらでもあります。そうだとすれば、「無担保・低利融資」は、有効な「経済政策」だということになります。
こうした事業主の活動が地域経済を支え、ひいては経済大国日本を根底において支えているという現実的関係は無視されてよいほど小さくありません。いわゆる優秀・優良企業だけで経済が回っているわけでないことは現実を見れば明らかです。
たとえば、小規模事業者のもつ経済意義を「雇用への貢献」ということに限ってみても、その意義の大きさは明らかです。企業の従業員規模を「一〜五人」「六〜二〇人」「二一〜五〇人」「五一〜一〇〇人」「一〇一〜三〇〇人」「三〇一人以上」の六段階に分けて、それぞれの雇用変動を見てみると、九六年から二〇〇一年まででネットで雇用を増やしたのは「一〜五人」の小規模企業だけです。「一〜五人」は六一万人増なのに対し、「六〜二〇人」は四九万人減、「二一〜五〇人」は六七万人減、「五一〜一〇〇人」は五一万人減、「一〇一〜三〇〇人」は七三万人減、「三〇一人以上」にいたっては一〇三万人も減少させています。
Q13
国民金融公庫は民間融資の利子補給に切り換えるべしとの意見があるようですが。
A
利子補給がなされたからといって、民間金融機関が国民金融公庫と同様の機能を担えるとは思えません。審査のあり方、融資期間、リスク負担能力で、政府金融機関と民間金融機関とでは違いがあります。利子補給さえすれば、これまで国民金融公庫が担ってきたリスクの高い起業資金の融資を民間銀行が肩代わりできるとは思えません。
また、利子補給は一方的ばらまきであり、巨額の財政赤字を抱える政府としてはむしろ避けるべき政策です。デフォルト(債務不履行)が発生しない限り、無担保・低金利融資でも、国民金融公庫が融資した資金は回収されます。ところが、利子補給という形で投じられた資金は一方的な支出であり、回収されません。「財政難だ」、「小さな政府だ」と一方で叫びながら、後者を選択すべきだと主張するのは明らかに矛盾しています。
政策金融改革私案
山口義行05.11.1
基本的考え方:政府系金融機関改革は何よりもまずその機能をより有効に発揮させるためになされるべきものである。政策融資機能の縮小を自己目的化してはならない。ましてやそれをたんなる財政支出削減策として行うべきではない。強引な縮小策で金融機能に障害が生じれば、経済の活力が失われ、結果として財政支出を増やさせることにもなる。また、政策融資の縮小は民間金融の機能強化と一体で進められるべきであり、したがって「改革」は民間金融のあり方を含めた総合的なものでなければならない。その意味で、より徹底した「改革」が求められる。
- 行動基準の明確化ーー政府系金融機関の直接融資は・・
- 民間金融機関との協調融資とすること、単独融資は民間金融機関がリスクやコストの関係で融資に応じない場合に限ること。
- 開業資金の融資、長期の融資、担保に依存しない融資、広域プロジェクトへの融資など、民間金融機関が担いにくい融資を中心とすること
- 重複機能の整理・再編ーー国内民間向け、海外向け、自治体向けに3区分し、国内向けは「金融円滑化機構」に一本化、海外向けは現在の国際協力銀行の存続、自治体向けは公営企業金融公庫を廃止し、自治体共同出資の新会社を設立する。ただし、これらの機構改革は政策金融の機能縮小を目的とするものではない。
- 「天下りの禁止」ーー政府系金融機関は、関係省庁出身者を「役員」としない方針を明確に示す。
- 民間金融改革とセットでーー金融アセスメント制度の確立など、民間金融の公共性確保の施策とセットにして政府金融改革がなされるべきである。

(公営企業金融公庫は一旦廃止し、地方自治体の共同出資であらためて設立)
(国際協力銀行は存続)
